《書評》
=産官学の複眼的視点から考察=
本書は世界経済情報サービス(ワイス)が事務局を務めるワイス為替研究会のメンバーを主とした執筆陣によるアジア通貨危機に関する研究書である。本書の特徴は著者が産官学と多様な機関に所属しており、複眼的視点からの考察が展開されていることである。アジア通貨危機は、国際経済、金融・為替、経済発展、産業構造といった広い領域にかかわり、かつ、投機、情報伝播、信用秩序といった動態的な考察が必要になるテーマである。本書ではこうしたテーマに意欲的に取り組んでいる。
本書の構成は第1部(1章〜6章)で通貨危機の真因と動向を分析し、第2部(7章〜15章)ではアジア9ヵ国のそれぞれの状況を個別に考察する。
第1章では、まずアジア通貨危機の発生の経緯を概観している。
第2章では外資依存度が高くなった産業構造の面から背景を説明。通貨危機を契機に、技術移転の乱れから東アジアの雁行形態に混乱が生じていると分析し、今後、産業構造の見直しを含め比較優位産業の育成が必要になると指摘している。
第3章では通貨危機発生の理論的位置づけを行う。「第一世代モデル」は当局が維持しようとする為替相場とマクロ経済政策などのファンダメンタルからみた為替相場の間に矛盾がある場合に発生し、「第二世代モデル」では通貨危機が民間の経済主体の予想に依存して自己実現的に通貨危機が発生する。いずれの場合も、金融危機が通貨危機を引き起こすメカニズムについて、通貨危機が発生した当事国は自国通貨が減価する過程で、国内銀行が外貨建債務で資金を調達する一方、ヘッジなしで国内に自国通貨建てで融資した結果、自国通貨の減価によって債務超過を生み金融破綻が生じることがマクロ経済環境の変化のなかで同時に起こりうる可能性を示唆している。また注目される通貨危機の伝染効果については、貿易・決済システム等を通じて連鎖的に発生する可能性が示唆される。こうしたアジア通貨危機の解明に向けての理論的研究の解説は類書になく、本書の特徴であろう。
第4章ではメキシコ通貨危機との比較を行い、銀行が脆弱であったことなどをあげる。危機への対応策としては資本流入の制限などを行いホットマネーを有効に抑制することが重要であると指摘している。
第5章ではアジア通貨危機が経済的システムに根ざす構造的なものであり、これに対するIMFのコンディショナリティは必要以上に景気を悪化させている面があると指摘する。通貨危機の解決には自国通貨減価による輸出拡大により自立的景気回復を図ることが重要であることを示唆する。
第6章では、APEC共通通貨単位の創設を提案している。経済安定を目的とした為替政策は今後の大きな課題である。
第2部はアジア各国別の研究である。各章のタイトルには状況を示すキーワードが挿入されており各国の問題点が浮き彫りになっている。以下でおもな国のタイトルを記載すると、通貨危機の防波堤となる中国、ドルペッグ制のコスト高の対応する香港、経済社会対策を進める韓国などである。最大の関心事である中国元の切り下げについては当面なしとみている。また、各国ごとにIMFとの関係の項目を設け解説している。
アジア通貨危機は日本や欧米に様々な影響を及ぼしており、危機を打開していくためには日本の果たすべき役割は大きい。編者が本書で意図したアジア通貨全体を俯瞰しながら、日本の役割を考えながら読むのもひとつの読み方であろう。
住友生命総合研究所 主任研究員 岩澤嘉則
(出所:金融財政事情 1999.5.31 書評)
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