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アジア通貨危機の経済学


近藤 健彦/中島 精也/林 康史/ワイス為替研究会編著
    

アジア通貨危機は米国、欧州をも巻き込む重大問題だ。なぜ生じたのか、その真因と動向を分析。アジア特有の官民一体政策が不良債権を拡大。通貨危機の動向を探究。

四六判  並製  248頁  1998年8月発行
東洋経済新報社 本体価格1,600円(税込1,680円)
第1部 アジア通貨危機の真因と動向
第1章 アジア通貨危機はなぜ起こったのか
第2章 東アジア諸国の経済発展の軌跡
第3章 アジア通貨危機の理論的位置づけ
第4章 メキシコ通貨危機からの教訓
第5章 アジア通貨危機とその対応策
第6章 アジア危機の通貨的側面
第2部 通貨危機に直面するアジア各国の研究
第7章 通貨危機の防波堤となる中国
第8章 ドルペッグ制のコスト高に対応する香港
第9章 経済・社会改革を進める韓国
第10章 東アジア経済再建のカギを握る台湾
第11章 先進国とのパイプ役を務めるシンガポール
第12章 通貨危機の影響を徐々に受けたマレーシア
第13章 スハルト後も課題山積のインドネシア
第14章 通貨危機・金融危機に立ち向かうタイ
第15章 経済・金融・通貨危機に取り組むフィリピン

「中国元についての誤解と不勉強」
 1997年7月、タイが為替の管理フロート制へ移行し、事実上のバーツの切下げを行い、東アジア各地に通貨危機が広がった。これまで“アジアの奇跡”とまで言われていた高度経済成長は止まった。
 個人的には、その数年前からアジアに注目していた。今回の事態を予想していたわけではない。しかし、パニックが起これば、投資家の多くは逃げられまいとは思っていた。

1995年の初めに、ポール・クルーグマンの「アジアの奇跡という幻想(The Myth of Asia's Miracle)」(FOREIGN AFFAIRS1994年11/12月号)を読み、仕事柄、改めて各国の経済を通貨制度の視点からも見ておく必要があると観じた。もちろん、その前からアジアは注目されていたが、このぺーパー以降、逆の意味でも注目しなけ ればならないと考えたのである(ついでながら、クルーグマンの翻訳『通貨政策の経済学』(共訳。東洋経済)をこの6月に出したが、何か因縁めいたものを感じなくもない)。

今夏、やっと上梓した『アジア通貨危機の経済学』(編著。東洋経済)は、当時、 アジア通貨の全体を俯瞰する本の必要性を感じたところから、企画したものである。

その後、出張でアジアを訪れ、あるいは、国際交流基金助成事業として大連の東北財経大学で教鞭を執る機会を得、ますます、アジアについて考えねばならないと思うようになった。

学ばねばならないことが山ほどある。中国の経済体制は実はよく知られていない。たとえば、人民元の資本市場は開放されていない。つまり、元の交換性は経常取引に限定されたもので、資本取引の影響から通貨下落することはない(通貨アタックを受ける懸念がない)のだ。政治的な判断で切下げが行われることはあっても、市場が先導して元が切下げに追い込まれることはないのである。マスコミに登場する識者というのもかなりいい加減だ。

この問題に関しては、結論として、1度の切下げは、止めどのない切下げにつながる。ロシアのルーブル切下げは、いったん混乱が生じれば、コントロールが効かなくなることを如実に示した。

この秋、私たちの本が中国語になる。日本の金融制度を研究しようとしながら、中国政府の資本市場の研究プロジェクトにも名を連ねることになった。学生時代には魯迅に惹かれた私だったが、今後、ますます、中国との関係は深まりそうだ。これまた、読むべき本が目の前に山と積まれている。

(出所:ニューリーダー 1998.11 書斎からのひとこと)


《書評》
=産官学の複眼的視点から考察=

 本書は世界経済情報サービス(ワイス)が事務局を務めるワイス為替研究会のメンバーを主とした執筆陣によるアジア通貨危機に関する研究書である。本書の特徴は著者が産官学と多様な機関に所属しており、複眼的視点からの考察が展開されていることである。アジア通貨危機は、国際経済、金融・為替、経済発展、産業構造といった広い領域にかかわり、かつ、投機、情報伝播、信用秩序といった動態的な考察が必要になるテーマである。本書ではこうしたテーマに意欲的に取り組んでいる。

本書の構成は第1部(1章〜6章)で通貨危機の真因と動向を分析し、第2部(7章〜15章)ではアジア9ヵ国のそれぞれの状況を個別に考察する。

第1章では、まずアジア通貨危機の発生の経緯を概観している。

第2章では外資依存度が高くなった産業構造の面から背景を説明。通貨危機を契機に、技術移転の乱れから東アジアの雁行形態に混乱が生じていると分析し、今後、産業構造の見直しを含め比較優位産業の育成が必要になると指摘している。

第3章では通貨危機発生の理論的位置づけを行う。「第一世代モデル」は当局が維持しようとする為替相場とマクロ経済政策などのファンダメンタルからみた為替相場の間に矛盾がある場合に発生し、「第二世代モデル」では通貨危機が民間の経済主体の予想に依存して自己実現的に通貨危機が発生する。いずれの場合も、金融危機が通貨危機を引き起こすメカニズムについて、通貨危機が発生した当事国は自国通貨が減価する過程で、国内銀行が外貨建債務で資金を調達する一方、ヘッジなしで国内に自国通貨建てで融資した結果、自国通貨の減価によって債務超過を生み金融破綻が生じることがマクロ経済環境の変化のなかで同時に起こりうる可能性を示唆している。また注目される通貨危機の伝染効果については、貿易・決済システム等を通じて連鎖的に発生する可能性が示唆される。こうしたアジア通貨危機の解明に向けての理論的研究の解説は類書になく、本書の特徴であろう。

第4章ではメキシコ通貨危機との比較を行い、銀行が脆弱であったことなどをあげる。危機への対応策としては資本流入の制限などを行いホットマネーを有効に抑制することが重要であると指摘している。

第5章ではアジア通貨危機が経済的システムに根ざす構造的なものであり、これに対するIMFのコンディショナリティは必要以上に景気を悪化させている面があると指摘する。通貨危機の解決には自国通貨減価による輸出拡大により自立的景気回復を図ることが重要であることを示唆する。

第6章では、APEC共通通貨単位の創設を提案している。経済安定を目的とした為替政策は今後の大きな課題である。

第2部はアジア各国別の研究である。各章のタイトルには状況を示すキーワードが挿入されており各国の問題点が浮き彫りになっている。以下でおもな国のタイトルを記載すると、通貨危機の防波堤となる中国、ドルペッグ制のコスト高の対応する香港、経済社会対策を進める韓国などである。最大の関心事である中国元の切り下げについては当面なしとみている。また、各国ごとにIMFとの関係の項目を設け解説している。

アジア通貨危機は日本や欧米に様々な影響を及ぼしており、危機を打開していくためには日本の果たすべき役割は大きい。編者が本書で意図したアジア通貨全体を俯瞰しながら、日本の役割を考えながら読むのもひとつの読み方であろう。

住友生命総合研究所 主任研究員 岩澤嘉則

(出所:金融財政事情 1999.5.31 書評)


《書評》

本書は、アジア通貨危機の投機的な動きが一段落して、時を置かずにその原因を分析し、非常に新鮮な内容が取り上げられている。数多くあるアジア通貨危機についての文献の中で、1990年代の経済動向と経済理論からその実態をバランス良く読み解いている書は、本書が抜群である。

これまでにも1990年代に入って、欧州諸国や中南米諸国で、タイプの異なる通貨危機が発生してきた。その都度、経済学者を中心としてその通貨危機の分析がなされ、再発防止策等が検討されてきた。しかし、奇跡的な高度経済成長の後に訪れた今回の東アジア諸国での通貨危機では、通貨危機に関する先行研究をある程度は生かせたが、深刻なショックを抑制するほどには生かせなかった。その理由は、東アジア諸国特有の政治経済事情があったためであったり、先行研究では考慮していなかった要因が作用したためでもある。これらに関わる論点について、本書は解き明かしてくれる。

大学、金融機関、公的機関等に属するさまざまな研究者によって、それぞれの立場からアジアの通貨危機に対する見方を示されている本書は、貴重であり、多様な捉え方を提供しているところが、本書の一つの特徴となっている。

通貨危機後のアジア経済は、依然として本格的に景気回復していない。現段階においては、通貨危機に対応したIMF・世界銀行等による支援策の効果を見極めなければならないとともに、通貨危機によって露呈した経済構造の問題点を中長期的な視野で解決して行かなければならない。そして、これらに関わる分析も本書の続編として今後の研究が待たれるところである。

慶応大学経済学部専任講師 土居丈朗

(出所:ジェトロ センサー 1999年2月号 書評)